SDGs推進のきっかけを教えてください。
〜東日本大震災が考えるきっかけに〜
「タニハタ」は飛鳥時代から伝承されている日本の伝統木工技術「組子」で、らんまや建具、空間装飾材を製造しているものづくり企業です。組子は、薄く挽き割られた木片を職人が一枚ずつ手作業で組み付けて作られています。
当社のSDGsは、もともとエネルギー関連対策を推進していたことから、一気に加速しました。2011年の東日本大震災の発災時、家族が福島県で孤立を経験、それまでは何気なくエネルギーを使っていましたが、震災と東京電力福島第一原子力発電所事故が起き、このままではいけないと感じ、自分たちの仕事や生活を見直すことにしました。
最初に着手したのは、工場内の省エネでした。どのような電力をどれだけ使用しているかを把握し、削減方法を学び、LEDへの付け替えや採光窓の設置を行いました。2015年からは太陽光発電による売電をスタート。2021年からは自家消費型太陽光発電設備を導入したものづくりも始めました。太陽光設備だけでは不足する電力については、北陸電力と富山県が二酸化炭素排出削減に取り組む企業に対し富山県産水力発電所の電気・環境価値を供給している電気料金メニュー「とやま水の郷でんき」の契約を行い、100%自然エネルギーのものづくりを行っています。
脱炭素経営を推進しておられますね。
〜海外の取引先の厳しい条件をクリアするものづくり〜
富山県SDGs宣言の目標1は「会社で使用するエネルギーは、全て再生可能エネルギーを使い、脱炭素経営を進める」です。先述した太陽光パネルの設置や「とやま水の郷でんき」の契約だけではありません。組子の製作中に発生する国産のスギやヒノキの切削くずをペレットにする「ペレタイザー」という機器を導入しています。出来上がったペレットは、社内にあるペレットストーブ(8台)の燃料として用い、工場や事務所など社内全体を暖めて、廃棄ゼロ、天然資源の循環を従業員にも浸透させています。ペレタイザーとペレットストーブの導入によって、それまで使われていた石油ストーブはすべて撤去しました。ほかにもヒノキの切削屑を県内企業の協力を得て蒸留し、芳香蒸留水にして来客にプレゼントしたこともあります。また社用車(2台)とフォークリフト(1台)は、EV車です。
「タニハタ」の製品は約2割が海外に販売されているため、環境に負担をかけないものづくりをより厳しい視点で捉える取引先がたくさんあります。海外に発信するには、地球温暖化や気候変動の対策の一助となるような環境配慮型のものづくりでないと認められない時代が来ているのです。そのため同社ではパリ協定が求める水準と整合した温室効果ガス削減目標を達成していることを証明する「SBTイニシアチブ」の認定を受けています。SBTに取り組んでいることで、持続可能な企業であることが国内外のステークホルダーに分かりやすく発信されています。環境配慮に関しては、海外と日本では大きな意識の差があり、まだまだ日本は遅れをとっていると感じています。
伝統技術の継承を大切にしておられますね。
〜日本の職人技を脈々と受け継ぐ〜
日本の伝統技術を継承している当社も、古いやり方を捨てようとした時代がありました。しかし今は、ITなどの新しい力を認めながら、伝統技術こそが大切であると考えています。そして職人の技術や手仕事を強みにしようという考えから、仕事の進め方も見直しています。本当に機械が必要であるかを判断し、なかには使用を取りやめた機械もあります。古くからの道具を大事にするために、プロを招き、使い方やメンテナンスを学び直しているのも職人の技術力の向上を目指しているからです。一人ひとりの職人を大切にしているため、同社には定年退職制度もありません。これらの要素が重なって、富山県SDGs宣言の目標2「社員が生きがいを持って働くことができる環境づくりを行う」が実現しているのです。男性と女性の割合が1:1で、各々が持ち場で技術を発揮していることや、若い職人が多数活躍していることも、社内の活気や働きがいに繋がっています。
国産材の使用で、木育にも積極的ですね。
〜国産材の魅力を世界各地に伝える〜
富山県SDGs宣言の目標3は「国産木材の利用を推進し、組子づくりを通してその重要性を国内外に発信する。国産木材のブランド化をめざす」です。海外へ届ける製品の素材が外国産であることに違和感を覚え、同社では2018年から主原料として使用してきた木材を外国産から国産のヒノキとスギに切り替えました。近年は国産の杉材を原料に社内で開発したオリジナル木材(利休杉)の使用も増えており、国産材の消費や海外発信に貢献するとともに、天然木の可能性も引き出しています。またSDGsを学ぶ子どもたちやグループの見学にも応じ、ワークショップも開催しながら、当社の技術を直接見てもらう場も増やしています。
ものづくりが二極化するなか、原料にこだわり、環境に負荷をかけない方法で、職人の手で製品を完成させるという流れを確立しました。近年、ものづくりのストーリーや背景が、製品選びのきっかけになることが増えています。脱炭素経営も必要ですが、同時に、愛着を持って、長く使っていただけるものをつくることが、私たちのサステナブル経営の芯なのだと思っています。
谷端信夫