SDGs推進のきっかけを教えてください
〜製造業のイメージを一変させるために、ESG経営を加速〜
半導体製造装置や食品検査装置など、金属部品の基幹部分を製造している「シンコー」は、製造業の「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージを払拭し地域から必要とされる企業になることを目指し、ESG経営を加速させています。SDGsの推進は、ESGが示す「環境」「社会」「ガバナンス(企業統治)」の観点から目標や取り組み内容を考え、長期的、持続的にできる内容を実施してきました。「1人は全員のために、全員は1つの目標のために」という経営スローガンのもと、社員一丸となって出来ることから始め、推進内容を徐々に拡大しています。
SDGsを進めるきっかけの一つは、時代の変化の早さでした。コロナ禍をきっかけに社会変容が起き、人々の行動が変わり、同時にDX化も促進されました。それに伴い、技術革新、価値観やライフスタイルの急速な変化もありました。近年は従業員だけでなく、ステークホルダーの多様性を受け入れ、互いを尊重することが重要な時代になっています。そこで地域の人々と積極的にかかわりながら、社員の定着率を向上させ、誰もが活躍できる企業づくりに力を入れています。環境に配慮したものづくり、雇用形態の多様化、健康経営の推進など、今後もESG経営を軸にSDGsの目標達成に向けて取り組んでいく考えです。
ESGのそれぞれの課題に向けた取り組みを進めておられますね。
〜自社でアプリを開発し、パレットの回収率をアップ〜
企業内の課題は大きく分けて3つありました。環境面では、CO2の排出量および温室効果ガスの削減、再生エネルギーの使用や生物多様性の確保です。また社会面では、社会や地域への貢献、適切な労働環境づくり、男女差に対する考え方などの人権対策、ダイバーシティの推進です。さらにガバナンスについては、企業理念の全社員への共有や情報開示等が挙げられます。
富山県SDGs宣言の目標1に「地球環境に考慮した現場内のムリ、ムダ、ムラの削減に努める」としているのは、環境面における企業課題解決の一歩目としたかったからです。具体的には、搬送用パレットの運用アプリを自社開発して、パレット管理を強化することで新たな購入を抑える取り組みをしています。パレットは製品の運搬に欠かせない存在ですが、企業名が記してあっても返却されない場合が多くありました。原材料の高騰などもあり、年間2,500万円分ものパレットを購入していたのです。そこでスマホで管理できるようにし、回収率・廃棄率を見える化して、未回収のものは回収要請を出すようにしました。この結果、パレット回収率が30%向上しています。ほかにも製品梱包に使うフィルムの使用削減を目指し、自社で治具(部品や工具の作業位置を指示・誘導するために用いる器具)の設計・製造を行っています。フィルムの使用量を減らし、治具による固定を推進したことで、資材梱包の発注回数が減っています。これも限りある資源を有効に使う取り組みです。
女性活躍推進に力を入れておられますね。
〜最先端の設備導入を、生産性アップと女性比率向上につなげる〜
以前までは生産現場で働くのは男性ばかりで、女性は事務、検査や洗浄というのが定番の配置。5年ほど前までは社内の女性比率も1割程度でした。しかし生産性向上や作業の効率化を目的に、最先端の生産設備や自動ロボットを設備導入し、AIやIoTを活用した生産をできるようにして業務改善を行なっていることで、現場で働く女性割合を増やすことができました。現在は、女性が溶接、曲げなどの製造工程を担えるようになり、女性比率も3割に向上しています。この取り組みを含めた女性活躍推進に向けた活動が評価され、富山県に本社を置く金属加工業で初めて、女性活躍推進法に基づく「えるぼし認定」の三つ星を獲得しています。今後もさらに推進を強化する考えから、目標2は「生産現場における女性活躍ができる環境づくりに努める」としました。
また従業員の3割は、ベトナムやブラジルからの技能実習生です。外国人の技能実習生にも健康診断と社内の健康フェスティバルの参加を呼びかけるとともに、年3、4回の弁当配布、クリスマスケーキのプレゼント、日本人従業員やその家族との交流にも参加してもらっています。実習生が暮らしているのは会社の宿舎もありますが、会社が借り受けた地域の空き家に住み、地域の人と日常的に交流しながら生活している人もいます。これは地域の空き家対策の貢献、地域の活性化にもなっています。
さらに障がい者の採用も積極的に進めているところで、トライアルを経て、2名の採用が決定しています。社会との接点をつくり自立に向けた支援になればと考えています。
ESG経営の結果、離職率の低下が進みましたね。
〜健康経営の推進、働きがいの創出により会社愛が育まれる〜
目標3は「社員が心身の健康を保ち、長く働き続けられる環境づくりに努める」です。健康経営に力を入れており、社内に運動やリフレッシュを目的としたアクティビティ施設を設けて就業時間内にヨガやキックボクシングに参加できるようにしたり、禁煙DAYを設けて喫煙者への講習会を実施したりしています。また定年はあるものの、再雇用の上限年齢を設けずに1日でも長く働けるように社内制度を制定しました。70代後半の従業員が、実際に現場で働いています。
ESG経営とSDGs推進によって、ここ数年、離職率が低下しました。従業員とその家族の幸せを一番に考え、会社が積極的に社会との接点を作ることで従業員の会社愛が醸成された表れだと思っています。
昨年度からシンコー未来工芸部を設立、地元の伝統工芸作家とコラボし、価値創造に向けて和紙と金属を融合させたオブジェ制作、作品づくり、ワークショップなどの活動にも取り組み始めました。社員の創造性を育み、発想の転換につなげることで、ものづくりの新たな可能性を追求しています。今後も地域との交流や社会貢献活動を行いながら、必要とされる企業であり続けたいです。
大石英明