SDGs推進のきっかけを教えてください。
~ニーズの変化をきっかけに、旅行業の存在意義を見つめ直す~
かつては団体旅行が主流だった旅行業界ですが、個人旅行へとお客さまのニーズが変化しています。あわせてインターネットの普及によって、ホテルやチケットの予約、目的地の検索が気軽にできるようになったこと、社員旅行の減少にともない、「西部トラベル」は変革が迫られていました。そして令和の幕開けとともに、当社は存在意義を改めて考え直すことになったのです。
1991年に創業した当社は「国際ネットワークを広め 世界平和文化の創造を目的とします」の経営理念のもと事業活動をしてきました。この経営理念は、SDGsの「誰一人取り残さない」という言葉と合致しています。私たちが得意にしているのは、人とコトを繋げることです。そこでSDGsにまつわるツアーを実施しようと動き出しました。当初はSDGsについて検索しても、推進したり目標を立てたりしている企業はわずかでした。その中で2020年に富山市のSDGs推進コミュニケーター養成講座に参加することになり、それが現在のツアーの企画や実施につながっています。
2022年からSDGsツアーをスタートされています。
~ツアーでの学びや気づきが、一人ひとりのアクションになる~
富山県SDGs宣言の目標1は「『ひろめる・つながる・みんなでつくる』」をキーワードに、とやまSDGsツアーを通じて、SDGsの普及、発展への貢献を目標とする」です。具体的には、富山県内の行政や企業、学校、NPOなどが実施するSDGsの取り組みをつなげる「SDGsツアー」の実施となります。2022年1月の富山市SDGsウイークの関連行事として考えたツアーでは、高齢者や不登校、引きこもりの若者、障害者を支援する施設を巡りました。参加された方からは、ツアーに参加したことで、SDGsを推進する多様な方々のアクションを知ることができたと高評価をいただきました。このほかの「SDGsツアー」も含め、この活動を通して知ったのは、ツアーの目的地に選ばせていただいている企業や団体の方々が、自分たちの活動に誇りを持っておられることです。また参加者も実際の活動現場を見て、そこにいる人の想いを聞くことで新しい視点が生まれています。参加者の「まなび・気づき・行動」のきっかけになっているのです。
また富山市SDGs推進コミュニケーターの有志とともに、異業種コラボ・地域連携ソーシャルグッドプロジェクトを組織し、2023年10月に「インクルーシブ未来旅~人と人、現在と未来がつながる旅~」を企画しました。会社や学校に行きづらいと感じていたり、高齢や体が思うように動かないのを理由に旅を諦めていたりする人への参加を積極的に呼びかけました。ツアーには子どもから90代までが参加し、世代間交流も活発に行われました。介護士も同行していたので、車椅子の高齢者にも安心して参加していただけました。今後もこのような企画を続けたいと思っています。
ツアーを通して、参加者に富山県の魅力を伝える
~コロナ禍を経て、事業の方向性も変化~
目標2は「持続可能な観光業の促進を目標とする」です。2020年の春に新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、旅行予約がすべてキャンセルになりました。これまで旅をすることで感動を提供してきたこともあり、当初はオンラインツアーの実施には後ろ向きだったのです。しかし同年の後半から、オンラインツアーの依頼がいくつも出てきました。そこで私たちも腰を据え、オンラインツアーを通じて、老若男女すべての方へ旅行機会を創出し、富山の魅力(世界遺産・自然・食・文化・伝統・人)を全世界へ発信することを決意しました。それが「富・楽・Re(ふらり)とやまSDGsオンラインツアー」です。オンライン上でシロエビ漁の様子を見ていただき漁師さんに直接質問できるようにしたり、富山湾の天然のブリを使った「ぶりしゃぶ」をご自宅へ発送し、オンライン上の宴会の中で富山の魅力の紹介やゲームをしたり、旅に出られなくても楽しめる要素を精一杯考えました。オンラインツアーは健康状態にかかわらず幅広い世代が参加でき、参加者同士が画面を通してコミュニケーションが取れるユニバーサルな商品です。当社にとっても持続可能なツールだと考えています。
目標3は「観光資源としての立山の自然環境保全を目標とする」です。当社はこの数年でオンラインツアーやマイクロツーリズムで富山の魅力を発信することへ、事業内容をシフトチェンジしました。富山が誇る山岳リゾート「立山」へのツアーも、自分たちに何ができるかに向き合いました。そこでスタッフの通称なべちゃんがナチュラリスト(富山県自然解説員)の資格を取得し、その上でお客さまをご案内することにしたのです。周辺の山々や高山植物の名前、立山信仰、ライチョウの生態など、さまざまな視点からお客さまに立山について話すことで、自然環境保護や生態系保全に役立つことができます。季節によってさまざまなツアーを企画しています。
今後への意気込みを聞かせてください。
~自分たちができることから実践していく~
思い返すと、そのときに自分たちができることを実践してきたのが今につながっていると感じています。コロナ禍で自由に移動ができなくなり観光がストップしたことで、富山県の魅力を考え直すことができ、SDGsへの意識が高まりました。まだ当社にも課題は多く残っていますが、自分たちのできることを実現するのはSDGsを推進する上でとても大切な考え方です。今後もパートナーシップ、富山の自然環境を守る活動、世代間交流というポイントを抑えながら「SDGsツアー」を広げたいと思っています。
山谷有樹