
SDGs推進のきっかけを教えてください。
〜SDGsは、私たち福祉の仕事を体現しているもの〜
1990年に設立した『社会福祉法人梨雲福祉会』は、笑顔・安心・家族・地域・信頼の5つを「つなぐ」ことをスローガンに掲げています。SDGsを意識するようになったのは、5年ほど前のこと。新聞記事を読み、職員の日々の仕事とSDGsとの接点の多さに気付いたことがきっかけでした。私たちの役目は、地域の皆さんに安心した暮らしを提供することで、SDGsは当会の理念に寄り添う存在です。そのため達成に向けた新しいアクションを起こしているわけではなく、日頃から行っている取り組みを体現しているものがSDGsであると考えています。
地域の方々との接点を積極的に作っておられますね。
〜存在価値や意義を伝え、福祉を身近に感じてもらう〜
富山県SDGs宣言の目標1は「社会福祉法人梨雲福祉会が、地域の核となり、懸け橋となれるよう、地域の皆様が安心してその人らしい暮らしの継続ができる環境をつくります」です。この目標の実現に向けて「地域かがやきアドバイザー」を設置しています。介護施設は閉鎖的なイメージが強く、近隣の人にも内部の状況が伝わりにくい場所です。そのため地域の人に自分たちの存在価値や役割を知ってもらおうと考えました。地域かがやきアドバイザーが地域の公民館や老人会の活動に顔を出し、御用聞のように困りごとを聞いて来ることから始めたのです。実現したことの一つが、カラオケ機器の貸し出しです。歌ったり体操コンテンツを利用してもらったりすることで、健康増進につなげてもらっています。また介護の悩みを聞いた場合は、法人内にある地域包括支援センターと情報を共有し、介護申請につなげてもらうなど、包括的な福祉の提供も行っています。当法人は県内で唯一のユニットリーダー研修実地研修施設でもあり、ユニットケアの普及を促進しています。一人ひとりの生活スタイルや時間、尊厳を大切にできる環境をつくることで、手厚い介護を受けながら、自立した豊かな人生を過ごせるようご支援しています。また、富山市指定の福祉避難所の役割も担っているほか、能登半島地震の際には避難者の受け入れを行うなど、地域の皆様に自分たちの存在意義を知ってもらうための様々な取組みを行っています。
職員の働きやすい環境を整備しておられますね。
〜ICT介護の導入で、介護職員の負担を軽くする〜
目標2は「社会福祉法人梨雲福祉会は、そこで働く職員も家族であり、職員の家族も自分の家族同様であると考えます。職員を愛し、職員が長く働くことができる環境をつくります」です。職員の産休や育休の取得を推進しており、復職後も安心して働けるように、施設内に託児所「ゆうゆうガーデン」を設置しています。託児所があることを理由に、同法人で働くことを決めた職員もいます。また有給休暇の取得率の向上を目指し、上司が休暇を取るように促すなどの策を取っています。働きやすい環境づくりの一環として、ICTの導入も図りました。介護施設専用の見守り支援システム「眠りSCAN」という機器で、ベッドに設置するとセンサーが自動で呼吸や心拍数をカウントして睡眠状態を把握できるというシステムです。ベッドに行かずに状態が把握できるようになったことで、状態の悪い人や看取りが近くなっている入居者の様子を何度も見に行く必要がなくなりました。異常があった場合は、アラームですぐに通知が届きます。これによって特に夜勤時の職員の身体的・精神的な負担が軽減しています。時間外労働の削減も目指しており、職員のワークライフバランスの実現に向けた戦略を加速させています。
入居者や利用者が、楽しみながら過ごせる要素が豊富にありますね。
〜地域社会の一員としての責任を果たす〜
目標3は「社会福祉法人梨雲福祉会は脱炭素、地域資源の有効活用に積極的に取り組みます」としています。ここでも「地域かがやきアドバイザー」が力を発揮しており、地域周辺のゴミ拾いや花壇の整備といった美化活動を実施しています。また施設でイベントが行われるときなどに、職員だけでなく利用者からもペットボトルのキャップの回収ができるようにし、二酸化炭素の削減にも貢献しています。使用済み切手、ベルマークの回収ボックスも用意されており、集まったら地域の小学校などにお届けしています。令和2年11月からはフードドライブも実施し、定期的に回収を行って、富山市社会福祉協議会を通じた寄付を行っています。
利用者や入居者の楽しみや生きがいの創出のために、近くの人が育てた野菜、日用品や菓子類を買えるマルシェスペースを設けたり、移動販売車に定期的に立ち寄ってもらえるようにしたり、施設内での楽しみも豊富に用意しています。地域の人がマルシェに持ってきてくれた野菜を厨房で手作りしている給食の材料にすることもあり、安心安全な食事を入居者や利用者に食べてもらっています。民謡や舞踏などを行うボランティアの慰問も受け入れていて、施設で福祉を受ける人たちの刺激になっています。
福祉業界を目指す人への影響も大きいようです。
〜宣言やSNSによる発信が、福祉業界のイメージ変革になる〜
当法人では、決してSDGsの推進が先にあるのではなく、私たちの仕事や福祉の提供の中にSDGsがあると考えています。富山県SDGs宣言をしたことで、地域の方々に当法人の取組みを知ってもらえたのが一番の収穫でした。これによって社会福祉法人の意義が認められ、職員の働きがいにもつながっていますし、今後、福祉の仕事を目指す人の窓口になればとも思っています。最近は法人の公式SNSを見て、働きたいという人が増えており、発信することの大切さも実感しています。

中村春彦






