
ひみ里山杉のブランディングを推進しておられますね
〜事業を拡大し、エンドユーザーに直接声を届ける〜
氷見市にある「岸田木材株式会社」は、100年以上の歴史を持つ木材の製材加工会社です。社会インフラ、公共建造物や一般住宅の構造材及び造作材、エクステリアなど、製材された木材は幅広い場所で活用されています。しかし衣食住の中で「住まい」について深く意識している人はほんのわずかで、自分が暮らしている家の木材がどこの山林から伐採されたもので誰が育てたものかを知る人はほとんどいません。当社はゼネコンやハウスメーカー等の企業間のみでの取引を長年行ってきましたが、数年前より事業をエンドユーザーに対しても拡大しました。少しでも多くの方に、富山県産材を身近に感じてもらいたいと考えています。そのためSDGsの推進は、製材加工業を通した人づくりや街づくりへの一歩だと捉えています。
富山県SDGs宣言の目標1は「氷見産杉(ひみ里山杉)の住宅用木材としての使用率向上」です。流通量拡大のため、地産地消の促進とブランディングを行っています。このようなブランディングに至ったのは2012年に開業した「ひみ番屋街」の建設に国産材ではなく米松(ベイマツ)が使われたことにあります。当時の社長(現在の会長)は大きなショックを受け、地元の木を認知してもらいたいと強く感じました。そこで同年に一般社団法人ひみ里山杉活用協議会を結成し、自治体とサプライチェーンによるひみ里山杉の利用促進活動がスタートしました。シンボリックな建造物への採用を狙う中で、最初に活動の成果が出たのは「富山県美術館」の内装です。その後も、あいの風とやま鉄道を運行する「一万三千尺物語」の内装、JR氷見駅、氷見市芸術文化会館などに採用されています。利用促進のPR活動は、今後も積極的に続けていきます。認知度が格段にアップしたことで、同社に対する周りの目が変化しました。コラボ商品を作りたいと声が掛かるようになったのです。醸造の過程でウッドチップを入れたビール、樹皮を使った万年筆のインク、木片から蒸溜抽出したアロマ製品など、県内外の企業とのコラボによって数々の商品が誕生しています。富山国際大学の学生の発案で、ひみ里山杉を使ったフォトフレームやキーホルダー製作を行うなど、学生との接点も生まれました。エンドユーザーに対してビジネスを拡大したことで、ひみ里山杉を身近に感じてもらう活動が、一つひとつ実を結んでいます。
森林イベントを開いて、持続可能な地域づくりのための木育活動をしておられますね
〜里山の機能や課題を伝え、山林保全の必要性を伝える〜
富山県SDGs宣言の目標2は「森林イベントを通じた木育プログラムの実施」です。同社では伐採や植林を体験できるイベントを開き、植林伐採サイクルの正常化と山林保全の必要性を伝える木育活動をしています。特に里山の持つ機能や、里山と人々の暮らしの密接な関係、里山が直面している課題を知ってもらい、地産地消の大切さを伝える持続可能な地域発展の実現に向けた活動に力を入れています。そのためイベントは単に楽しく遊ぶだけでなく、生態系や治水に関することなど山林の多面的な理解を促すことを大切にしています。また活動の中で富山県産材を活用する意義、ひみ里山杉の歴史、特徴や魅力も伝えています。製材場の見学では、カットされる木材についての説明を行っています。木材は丸太をカットするため、どうしても余りの部分が出てしまいます。おがくずは牛の寝床や堆肥、樹皮は鶏糞と合わせて堆肥にでき、チップはパルプの材料になるため、木材は捨てる場所がほぼありません。イベントは社内の「森林パートナー委員会」が中心に行っており、エンドユーザーと接することで従業員も好影響を受けています。また、属人化を解消するために人材の配置を変更したり年間休日数を増やしたりなど、働き方改革を推進することで、従業員のワークライフバランスを実現しています。
カットされる木材についての説明に使用する丸太標本
今、山林の保全管理や継承などが課題になっておられます
〜パートナーシップを活用し、ひみ里山杉の利用促進と価値向上を図る〜
富山県SDGs宣言の目標3は「ひみ里山杉活用協議会の運営」です。関係団体の活動に積極的に取り組み、林業に携わるサプライチェーンのパートナーシップを活用した新たな取り組みの推進、ひみ里山杉を活用した新たな商材の開発を行っています。当社では山林を保有していませんが、ひみ里山杉活用協議会への窓口となって山林の保全管理、継承などの相談にも乗っています。
富山県SDGs宣言をしたことで、講演や発表の機会を得るなど、当社の事業内容や取り組みを広く発信できる機会が増えました。自社のリソースが限られている中で、県内外の企業とのパートナーシップによって発信できることを、さらに増やせたらと考えています。ひみ里山杉は、柔らかい材質で傷がつきやすい一方、温かみがあり、消臭作用や調湿効果に優れているなどのメリットもあります。さまざまな取り組みによって、利用促進を図り、価値の向上を図っていきます。今後は山林の管理や、当社での製材後の木材の活用事業も視野に入れており、森と人の未来に寄り添うものづくりを考えています。

岸田真志










